5時間前に知り合った、ピカピカの1年生パパがちょうど帰るところ。産まれたての子どもの写真もたくさん撮れたみたいだ。
「きょうはゆっくり寝れるね」
「ありがとうございますー。安藤さんのところの男の子も無事、産まれますように」
「サンキュー。明日以降また入院病棟で会うかもね。よろしく」
「はい!」。うん、いい笑顔だ(^^
18時48分、
「うーん、分娩室入ってもう1時間か。ちょっと手間取ってるのかな?」
3月に出す新刊の再校ゲラを直しながら、サトシの誕生を待つ。
そして、18時54分。
i-Podの曲が、ビリー・ジョエルの「Movin' Out」に変わったその時…
「オギャー、オギャー」
元気な赤ちゃんの泣き声が分娩室の方から聞こえてきた。
「ワオ!産まれたか」
19時18分、さっきの助産師さんが来る。
「安藤さーん、産まれましたよ。18時54分、3010グラムの元気な男の子。お母さんも元気です」
「ありがとうございますー!!」
19時22分、手を入念に洗い、分娩室に入れてもらう。奥さんは分娩台にいるが、赤ちゃんの姿が見えない。
「ママ、ご苦労さま。痛かったかい?」
「何度やっても、お産は苦手だわー」
スッキリした笑顔で奥さんが答える。元気そうだ。
「おとうさん、こっちへ」。助産師さんに呼ばれて隣の処置室に行く。
ベッドの上に、小さなサトシはいた。
「おー、きみがサトシか。やっと会えたね。パパだよ」
手足をバタバタさせて、サトシが反応する。爪もしっかり生えた手が、ボクの指をぎゅっと握る。
「おー、いい子だ。これからよろしくな。一緒にロックしようぜ」
助産師さんが言う。
「破水して羊水がちょっと濁ってたようで、赤ちゃんの体温がちょっと低いので、いまここで温めてます」
「大丈夫なんですか?」
「ええ、さっき小児科の先生にも診てもらったら『大丈夫』って」
「そうですか。よかった サトシをよろしくお願いします」
それから、持ってきたデジカメで写真を何枚か撮る。「テルノとヒロシに見せなくちゃな」
7時57分、夕飯をパクパク食べながら奥さんが言う。
「子どもたち、明日は学校だから、もういいよ。パパ、ありがとう」
「オッケー。じゃあ、明日ね。学校終わったら子どもたち連れて来るよ」
「うん、朝、寝坊しないようにね」
「分ってるって。ママも今日はゆっくり寝るんだよ」
「バイバイ」
8時02分、病院を後にする。
「うん。今日はなかなか、いいライブだったなー」
空を見上げると、あんなに降っていた雪が、もう雨に変わっていた。
さあ、子どもたちが待つ家に帰ろう。
明日は、晴れるかな? あ、牛乳買って帰らなきゃ。