一昨日は、国際交流基金とフリードリヒ・エーベルト財団主催のシンポジウムがあり、ボクもパネラーの一人として参加しました。
テーマは「未来の子ども、子どもの未来: 経済危機下の子どもをめぐる政策と、市民社会の役割」
ドイツは少子化問題や子どもの貧困、青少年を取り巻く環境が日本とよく似ている。
あるいは「三歳児神話が強い」「保育園が足りない」など、育児の在り方も日本と共通することが多く、背景(歴史)や社会状況(移民問題)は異なるものの、日本がドイツから学ぶことは多いのでは、と期待して行きました。
第一部では、日本とドイツの経済危機下における「子ども政策」と子どもの育ちに係る課題を中心にまず各パネラーがプレゼンテーション。
ドイツ連邦家族・高齢者・女性・青少年省の担当官が「ドイツにおける家族・子ども政策の最近の動向」を説明。
以下が大まかな発言内容。ドイツ語が堪能なFJ会員のパパがまとめてくれました。
■ドイツの子ども政策
○経済危機下における対策として、
・2010年以降児童手当の引き上げ、児童控除の拡大、一人親の生活費準備金の増額を計画。
・合わせて46億ユーロ(約6200億円)の親負担の軽減を図る。
○近年の児童・青少年政策として、
・保育サービスの整備と質の向上:2013年までに3歳未満児童の保育サービスの整備、2009年利用率20%を平均35%まで向上
(ドイツでは3歳以上ではほぼ100%何らかの保育または教育機会を受けている。)
・家庭的保育(保育ママ)制度の充実
・児童虐待への対応と予防策の強化:連邦と州の共同イニシアティブによる親と子どものための早期援助と早期発見制度の取り組み
・インターネット上の性的犯罪撲滅、被害者支援、国際協力
・青少年の職業教育と就労支援
・移民出身の青少年、青年の生活支援と社会参加機会の提供 等
・・・・・・・・・・
また別のパネラーが、ドイツにおける子どもの貧困の詳しい状況を説明してくれました。以下です。
■ドイツの子どもの貧困問題
○年々子どもの貧困率が向上
・現状のまま少子化が進めば2035年には子どもの数が1000万人に減少するのに対し、子どもの貧困は400〜500万人に増えると予測(所得が低い世帯ほど子どもの数が多く、貧困が世代を超えて定着してしまう)。
○子どもの貧困は、子どもの教育・就労、健康、社会参加に強く影響する
・教育・就労への影響:教育・就労の機会の減少、収入の減少、貧困の固定化
・健康への影響:ストレスの増加、集中力の低下、心理的・物理的暴力による障害、摂食障害等、成長・発達障害
・社会参加への影響:社会参加機会の減少、差別、孤立化
→結果として肯定的な未来を描けず、自立が困難となる。社会的財政的負担増。
・・・・・・・・
どうでしょう?虐待や貧困などは、ドイツはまさに日本と同じような情況にあるということが分かります。
続いて、日本の厚労省・少子化対策企画室長も日本の現状と展望について説明。ドイツのパネラーたちも耳を傾けていました。
その後、白波瀬佐和子さん(東京大学准教授)は「子どものいる世帯の貧困に関する国際比較」というテーマでクリアなプレゼン。日本の貧困対策がいかに遅れているかが判明。
前田正子さん(横浜市国際交流協会理事長、横浜市元副市長)は、「子どもを支えるのは、お金か支援の仕組みか―どちらが大事? 限られたパイの中での優先順位を考える」 というテーマで、横浜市の子ども政策を例に、国の子ども手当など子育て支援策のプライオリティについて自論を展開。大いに頷くことがありました。
続いて第2部は、具体的な取り組みについて発表。
トップバッターのボクは、日本の父親育児の状況と少子化問題との関係などを、FJの活動の話を通してプレゼン。通訳を通して、ドイツの皆さんも理解してくれたようです(多少、笑いも取れた^^)。
その後、ドイツ子ども保護全国連盟会長が、「子どもの貧困に関する取り組みー市民社会の視点」というテーマで、ドルマーゲン市という自治体とNPOらの子育て支援の取り組みを紹介してくれました。
以下にまとめます。
・ドルマーゲン市はデュッセルドルフとケルンの中間にある人口約65,000人の小都市
・子どもの早期支援ネットワークを独自に構築し、成果をあげている
・妊娠段階から地域の医師、助産師、社会福祉士などによるネットワークで希望する支援や情報サービスを提供
・同様に出産後も子どもの保育、幼児教育だけでなく、保護者に対する育児支援(コミュニケーション、グループカウンセリング、育児相談等)を無償で提供(ドイツでは移民世帯が多く、父母の社会や子どもとのコミュニケーション能力が育児と子どもの将来の成長において大きく影響する)
・地域の育児ネットワークとの連携によるもので、子育て世帯の自助、自立を支援している
・成果として子どもの就学時におけるトラブルが大幅に減る(例:当初就学時の子どもの45%が言語上の問題を抱えていたのが、現在では「2人」にまで減少した)とともに、子育て世帯の生活に関わる自己解決能力が高まっており、結果的に自治体の財政負担の軽減につながっている
・・・・・・・・
こうした先進的な取り組み事例は、日本の自治体の職員などに聴いて欲しかったですね。
ボクが特に印象に残ったのは、「予防の対策こそが大事」という考え方。つまり「問題」を抱えてからではなく、なるべく早期に支援の手を差し伸べることで、「困難な子育て家庭」を作らないことが重要。そのことで親子ともども自立が進むし、そうなれば自治体の社会コスト(予算)も節約できる、という卓越した戦略・方針でした。
これはまったく同感。日本でもFJの活動によって父親たちの意識が向上すれば、母親の育児不安や虐待、離婚→ひとり親家庭という流れが少しは変えられるのではと常々考えているからで、ドルマーゲン市のケースは合点のいくものでした。
さて肝心の父親の育児については、ドイツの方たちはFJの取り組みに興味を示していたものの、ドイツにおける父親支援の取り組みについては特に触れられませんでした(ドイツにはこのような父親支援団体もあるのですが)。
聞いたところでは、父親の育児参加については、若い世代の間でも二極化(積極的に育児に関わる父親と、育児に全く関心を示さず、産後すぐに別れてしまう父親)が進んでおり、一方で移民世帯での父親の育児参加はかなり低いと考えられているようです。
以上がおおよそのレポートになりますが、会場の皆さんからも後半には質問も出て、その後のレセプションも盛り上がりました。
本格的な国際会議に出たのはボクも初めてできたが、たいへん勉強になったし、対策の進むドイツからの情報提供が、日本への警鐘(アラーム)に聴こえて仕方ありませんでした。
でも、こと父親支援については、ドイツより日本の方が進んでいる感じもしたので、もしドイツ国内でシンポジウムなどが開催されるときには、今度はこちらから乗り込んで、古い価値観のジャーマンパパたちを揺さぶってみたいな、とも思いました